高配当投資 確定申告が必要になる人・ならない人:あなたの状況で判断するガイド
高配当投資をされている多くの読者様にとって、確定申告が必要なのかどうかはしばしば疑問となる点かと存じます。特に投資初心者の方にとっては、税金や申告制度が複雑に感じられ、ご自身の状況がどのケースに該当するのか判断が難しい場合があるかもしれません。
この記事では、高配当投資における確定申告の基本的な考え方をご説明し、どのような場合に確定申告が必要となるのか、あるいは不要となるのかを具体的に解説いたします。ご自身の状況に照らし合わせながら読み進めていただくことで、確定申告の要否を判断できるようになることを目指します。
確定申告とは:高配当投資における基本
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得と、それに対する所得税等の税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きです。給与所得者の方の場合、通常は勤務先が年末調整を行うため確定申告は不要ですが、一定の条件を満たす場合は確定申告が必要になります。
高配当投資で発生する主な所得には、株式の配当金などから得られる「配当所得」と、株式などを売却した際に得られる利益である「譲渡所得」があります。これらの所得に対して税金(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%で合計20.315%)がかかりますが、その取り扱いは投資に利用している口座の種類によって異なります。
確定申告が「不要」となる主なケース
高配当投資を行っていても、特定の条件下では確定申告が不要となることが一般的です。以下に主なケースを挙げます。
特定口座(源泉徴収あり)のみを利用している場合
多くの投資初心者の方が利用される特定口座(源泉徴収あり)では、証券会社がお客様に代わって税金の計算と納税を行います。配当金や株式の売却益が発生した際に、あらかじめ税金が差し引かれて(源泉徴収されて)支払われるため、原則として確定申告は不要です。
この場合、年間損益報告書が証券会社から発行されますが、税金の手続きは完了しているため、そのままにしていても問題ありません。
NISA口座のみを利用している場合
NISA口座(一般NISA、つみたてNISA、新NISAを含む)内で得られた配当金や売却益は、非課税となります。非課税であるため、税金は発生せず、確定申告も一切不要です。
ただし、NISA口座で保有している株式の配当金を「株式数比例配分方式」以外の方法(登録配当金受領口座方式や郵便局などでの受領方式)で受け取る場合、非課税とはならず、確定申告が必要になるケースがあります。NISAの非課税メリットを最大限に活用するためには、「株式数比例配分方式」を選択することが推奨されます。
公的年金受給者で、他の所得が少ない場合
公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、かつ、それ以外の所得(高配当投資による所得など)が年間20万円以下である場合は、確定申告が不要となります。
給与所得者で、高配当投資による所得が少ない場合
給与所得者で、給与や退職所得以外の所得(高配当投資による所得や副業収入など)の合計額が年間20万円以下である場合、所得税の確定申告は不要です。
ただし、この基準は所得税に関するものであり、住民税については年間20万円以下の所得であっても申告が必要となる場合があります。住民税の手続きについては、お住まいの市区町村にご確認ください。
確定申告が「必要」または「した方が有利」となる主なケース
高配当投資において、確定申告が必要になったり、あるいは確定申告をすることで税金面で有利になったりする場合があります。
一般口座で取引している場合
一般口座で株式の取引を行った場合、特定口座とは異なり、証券会社による源泉徴収が行われません。そのため、譲渡所得や配当所得が発生した場合は、ご自身で所得金額を計算し、確定申告を行う必要があります。
複数の証券口座があり、損益通算を行いたい場合
複数の証券口座(いずれも特定口座(源泉徴収あり)以外、または特定口座(源泉徴収あり)と他の口座の損益を通算したい場合)で取引を行い、一方の口座で発生した売却益と他方の口座で発生した売却損を相殺したい場合(損益通算)は、確定申告が必要です。損益通算により、税負担を軽減できる可能性があります。
譲渡損失の繰越控除を行いたい場合
株式等の売却によって損失(譲渡損失)が発生し、損益通算をしてもなお損失が残った場合、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越して、将来発生する配当所得や譲渡所得から控除することができます(繰越控除)。この繰越控除の適用を受けるためには、損失が発生した年はもちろん、その後繰越控除を適用する年も連続して確定申告を行う必要があります。
特定口座(源泉徴収あり)でも税金を取り戻したい場合(配当控除や還付)
特定口座(源泉徴収あり)で源泉徴収された配当所得に対して、総合課税を選択して確定申告を行うことで「配当控除」の適用を受けられる場合があります。配当控除を適用することで、源泉徴収された税金の一部または全部が還付される可能性があります。
ただし、総合課税を選択すると、他の所得(給与所得など)と合算されて課税所得が計算されるため、所得税率が高くなる場合があります。ご自身の所得金額によっては、総合課税よりも申告分離課税や申告不要制度を選択した方が有利になることもありますので、慎重に判断する必要があります。
また、特定口座(源泉徴収あり)であっても、確定申告をすることで源泉徴収されすぎた税金の還付を受けられるケースが存在します。
その他
上記以外にも、以下のようなケースで確定申告が必要になる場合があります。
- 非上場株式の配当を受け取った場合
- 確定申告を行うことで、医療費控除や住宅ローン控除など、他の控除を受けたい場合
あなたの状況で判断するチェックリスト
ご自身の高配当投資に関する状況に基づいて、確定申告の要否を判断するための簡単なチェックリストです。
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あなたが利用している主な口座の種類は?
- 特定口座(源泉徴収あり)のみ → 2へ
- NISA口座のみ → 確定申告は不要です(ただし配当金の受取方法にご注意ください)。
- 一般口座を利用している、または特定口座(源泉徴収なし)を利用している → 確定申告が必要です。
- 複数の口座(特定口座(源泉徴収あり)以外を含む、または通算したい) → 3へ
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特定口座(源泉徴収あり)以外(一般口座、他の特定口座など)で、配当金や売却益は発生しましたか?
- はい → 確定申告が必要な場合があります(所得金額によります。後述の「給与所得者で所得が少ない場合」参照)。
- いいえ → 確定申告は原則不要です(ただし、配当控除の適用や還付を受けたい場合は「した方が有利」な場合があります。4へ)。
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複数の口座間で損益通算を行いたい、または譲渡損失の繰越控除を行いたいですか?
- はい → 確定申告が必要です。
- いいえ → あなたの状況によります。各口座の種類に応じた対応を確認してください(一般口座があれば必要、特定口座(源泉徴収あり)のみなら原則不要など)。
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特定口座(源泉徴収あり)の配当金について、配当控除の適用を受けたいですか?
- はい → 確定申告を「した方が有利」な場合があります(所得金額により有利不利が変わります)。
- いいえ → 確定申告は原則不要です。
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あなたは給与所得者ですか?給与や退職所得以外の所得(高配当投資による所得、副業など)の合計額は年間20万円を超えますか?
- はい(給与所得者で、他の所得が20万円超) → 所得税の確定申告が必要です。
- いいえ(給与所得者でない、または給与所得者でも他の所得が20万円以下) → 確定申告の要否は他の条件(口座の種類など)によります。
上記のチェックリストは簡易的なものです。個別の状況によっては異なる場合がありますので、ご自身の取引内容をよくご確認いただくことが重要です。
判断に迷う場合の注意点と確認先
- 住民税の申告: 所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要になるケースがあります。特に給与所得者で、給与・退職所得以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告をしなかった場合、住民税の申告は別途行う必要がある場合があります。お住まいの市区町村にお問い合わせください。
- 年間取引報告書: 特定口座(源泉徴収あり・なし)を開設している場合、証券会社から年間取引報告書が交付されます。この報告書で1年間の取引の損益や源泉徴収税額を確認できます。確定申告を行う場合、この書類が必要になります。
- 税務署や専門家への相談: ご自身の状況で確定申告が必要かどうかの判断に迷う場合や、より複雑なケースに該当する場合は、最寄りの税務署や税理士などの税務専門家に相談することをお勧めいたします。国税庁のウェブサイトでも多くの情報が提供されています。
まとめ
高配当投資における確定申告の要否は、主に利用している口座の種類、取引の内容(売却益や配当金の発生)、他の所得金額、そして税制上のメリット(損益通算、繰越控除、配当控除など)を享受したいかによって決まります。
多くの場合、特定口座(源泉徴収あり)のみを利用し、特別な控除等を受けないのであれば確定申告は不要です。しかし、一般口座を利用している場合や、税金面で有利になる手続き(損益通算や繰越控除、配当控除など)を行いたい場合は、確定申告が必要または有効になります。
ご自身の投資状況を把握し、この記事のチェックリストや解説を参考に、確定申告が必要か不要かを判断してください。もし判断に迷う場合は、適切な機関に相談し、正確な情報に基づいて対応することが重要です。適切な税金管理を行い、安心して高配当投資を続けていただければ幸いです。