高配当投資で売却損が出た場合の税金:譲渡損の3年間繰越控除を解説
はじめに
高配当投資は、定期的な配当金収入を期待できる魅力的な投資手法です。しかし、どのような投資にも価格変動リスクは存在し、保有している株式やETFを売却する際に、購入価格を下回る損失(譲渡損)が発生する可能性もあります。
投資で損失が出た場合でも、税金に関する有利な制度が存在します。その一つが「譲渡損の3年間繰越控除」です。この制度を正しく理解し活用することは、高配当投資を続ける上で税金負担を軽減するために非常に重要です。
この記事では、高配当投資において売却損が発生した場合に利用できる、譲渡損の3年間繰越控除について、その仕組みや適用方法、注意点を投資初心者向けに分かりやすく解説します。
株式等の譲渡所得にかかる税金
まず、株式やETFを売却して利益が出た場合にかかる税金について簡単にご説明します。
株式等を売却して得られる利益は「譲渡所得」と呼ばれます。この譲渡所得には税金がかかり、その税率は所得税15%、住民税5%に、2037年末までは復興特別所得税0.315%が加算された、合計20.315%です。この税金は、利益が発生した年に納める必要があります。
通常、特定口座(源泉徴収あり)を利用していれば、証券会社が税金を計算して差し引いてくれるため、ご自身で確定申告をする必要はありません。
譲渡損とは何か
譲渡損とは、株式等の売却価格がその購入価格を下回った場合に発生する損失のことです。例えば、10万円で購入した株式を8万円で売却した場合、差額の2万円が譲渡損となります。
譲渡損の損益通算
株式等で譲渡損が発生した場合、まず最初に行えるのが「損益通算」です。損益通算とは、同一の年に発生した他の株式等の売却益や、申告分離課税を選択した配当所得と相殺することです。
例えば、A銘柄で2万円の譲渡損が発生し、同じ年にB銘柄で5万円の譲渡益が発生した場合、この2つを相殺して、最終的な譲渡益は3万円となります。この3万円に対して税金がかかることになります。 また、申告分離課税を選んだ配当所得がある場合も、譲渡損と相殺することが可能です。
この損益通算を行うことで、税金がかかる対象となる利益を減らし、税金負担を軽減することができます。特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合は、通常、証券会社が自動的に同一口座内の損益通算を行ってくれます。
譲渡損の3年間繰越控除の仕組み
損益通算を行ってもなお控除しきれなかった譲渡損がある場合、その損失を翌年以降に繰り越して、将来発生する株式等の利益から差し引くことができる制度があります。これが「譲渡損の3年間繰越控除」です。
繰り越しできる期間は、損失が発生した年の翌年から最大3年間です。この制度を利用することで、損失が発生した年だけでなく、その後の数年間にわたって税金負担を軽減することが可能になります。
例えば、ある年に株式等の譲渡益がゼロで、譲渡損が10万円発生し、他の所得との損益通算もできなかったとします。この10万円の譲渡損は、翌年に繰り越すことができます。もし翌年に株式等の譲渡益が7万円発生した場合、繰り越した10万円の譲渡損のうち7万円をこの譲渡益から差し引くことで、翌年の譲渡益をゼロにすることができます。残りの3万円の譲渡損はさらに翌年に繰り越すことが可能です。
繰越控除を適用するための手続き
譲渡損の3年間繰越控除の適用を受けるためには、重要な手続きが必要です。それは、損失が発生した年から、繰越控除を適用しようとする年(利益が出た年)まで、毎年連続して確定申告を行うということです。
- 損失が発生した年: たとえ利益がなく、損益通算で税金がかからなかったとしても、譲渡損の金額やその繰り越しを税務署に申告するために、確定申告書を提出する必要があります。この申告を行うことで、損失を翌年へ繰り越すことが可能になります。
- 翌年以降(繰り越し期間中): 損失を繰り越している間は、たとえその年に株式等の売買がなかったり、利益が出なかったりした場合でも、毎年連続して確定申告書を提出し、前年から繰り越した損失額を記載する必要があります。これにより、損失を次年度へ引き継ぐことができます。
- 利益が発生し、繰越控除を適用する年: 繰り越した損失と相殺する年にも確定申告を行い、繰り越した損失額を記載して、譲渡益から差し引く手続きを行います。
この手続きを怠ると、損失の繰り越しや繰り越した損失の適用ができなくなってしまいます。特に、損失が発生した年や、損失を繰り越している途中の年に確定申告を忘れてしまうと、その後の繰越控除の権利が失効してしまうため、注意が必要です。
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合でも、この繰越控除を受けるためには確定申告が必要となります。証券会社から送られてくる年間取引報告書などを利用して、確定申告書を作成・提出します。
繰越控除を利用する上での注意点
譲渡損の3年間繰越控除は便利な制度ですが、いくつか注意すべき点があります。
- 確定申告は必須: 前述の通り、損失が発生した年から毎年連続して確定申告を行わなければ、この制度を利用することはできません。利益が出なかった年も申告が必要です。
- NISA口座の損失は対象外: NISA口座や新しいNISA制度の非課税投資枠内で発生した譲渡損は、損益通算や譲渡損の繰越控除の対象にはなりません。これは、NISA口座は利益に対する税金がかからない代わりに、損失に関する税務上の優遇措置も受けられないためです。繰越控除を利用できるのは、特定口座や一般口座での取引で発生した損失に限られます。
- 申告分離課税の選択: 配当所得と譲渡損を損益通算する場合、配当所得を総合課税ではなく「申告分離課税」として確定申告する必要があります。特定口座(源泉徴収あり)の配当金を受け取っている場合でも、申告分離課税を選択し確定申告することで、譲渡損との損益通算が可能になり、その結果控除しきれない損失を繰り越せる場合があります。
- 損失の証明: 確定申告を行う際には、損失額を証明できる書類(年間取引報告書など)が必要になります。証券会社から送付される書類を大切に保管しておきましょう。
まとめ
高配当投資を含む株式投資では、意図せず売却損が発生することもあります。しかし、譲渡損の3年間繰越控除という制度を理解しておけば、その損失を税金負担の軽減に活かすことが可能です。
この制度の適用には、損失が発生した年から毎年連続して確定申告を行う必要があります。手続きは少し複雑に感じられるかもしれませんが、将来の税金負担を抑えるために重要なステップです。特に特定口座(源泉徴収あり)で普段確定申告をしていない方も、この制度を利用する際には確定申告が必要になる点を覚えておきましょう。
ご自身の取引状況に応じて、損益通算や繰越控除の適用を検討し、必要に応じて税務署や税理士などの専門家に相談することも有効です。制度を正しく理解し、適切に活用することで、賢く高配当投資を続けていきましょう。