高配当投資の配当控除:適用条件、メリット・デメリット、計算方法を解説
高配当投資の配当控除:適用条件、メリット・デメリット、計算方法を解説
高配当投資では、定期的に受け取る配当金が魅力の一つですが、この配当金には税金がかかります。しかし、一定の条件下では、税負担を軽減できる「配当控除」という制度が存在します。
配当控除は、配当所得にかかる税金を一部取り戻せる可能性がある制度ですが、適用を受けるためには条件があり、すべての方にメリットがあるわけではありません。特に投資初心者の方にとっては、税金の計算方法や制度の選択が複雑に感じられるかもしれません。
この記事では、高配当投資をされている方、またはこれから始めようと考えている方に向けて、配当控除の仕組み、適用条件、メリット・デメリット、具体的な計算方法、そして他の申告方法との関係について、分かりやすく解説します。この記事を読むことで、ご自身の状況に合わせた最適な税金対策を検討できるようになるでしょう。
配当控除とは
配当控除とは、国内の企業から受け取る配当金など、一定の配当所得について、所得税および住民税から一定額を差し引くことができる税額控除の制度です。
企業が得た利益に対しては、まず法人税が課税されます。その残りの利益が配当金として株主に支払われ、さらにその配当金に対して所得税や住民税が課税されます。このように、法人段階と個人段階の二重に税金がかかる状態(経済的な二重課税)を緩和するために、配当控除という制度が設けられています。
配当控除の適用条件
配当控除の適用を受けるためには、いくつかの条件があります。主な条件は以下の通りです。
1. 対象となる配当所得
配当控除の対象となるのは、主に国内の上場株式等の配当金です。以下のような配当は、原則として配当控除の対象外となります。
- 外国株式の配当金
- 非上場株式の配当金
- 投資信託の分配金のうち、元本払戻金(特別分配金)
ご自身が受け取っている配当金が配当控除の対象となるかどうかは、支払通知書などで確認することができます。
2. 申告方法
配当控除の適用を受けるためには、確定申告を行い、「総合課税」を選択する必要があります。
配当所得の申告方法には、主に以下の3つがあります。
- 総合課税: 給与所得や事業所得など、他の所得と合算して税額を計算する方法です。配当控除はこの方法を選択した場合にのみ適用可能です。
- 申告分離課税: 他の所得とは分離して、配当所得に対して一律の税率(所得税15.315%、住民税5%)で税額を計算する方法です。配当控除は適用されません。
- 申告不要制度: 特定口座(源泉徴収あり)で受け取る配当金などについて、確定申告をしない方法です。この場合も配当控除は適用されません。
特定口座(源泉徴収あり)で配当金を受け取る場合、通常は税金が源泉徴収されるため確定申告は不要ですが、配当控除の適用を受けたい場合は、あえて確定申告をして総合課税を選択する必要があります。
配当控除のメリット・デメリット
配当控除を適用することには、メリットとデメリットがあります。
メリット:税負担の軽減
最大のメリットは、税金が安くなる可能性があることです。配当所得から一定額が税額控除されるため、手取りの配当金を増やすことができます。特に、配当所得以外の所得があまり多くない方や、課税される所得金額が低い方にとっては、税率の面からも有利になる場合があります。
デメリット:総合課税の選択と手続き
配当控除を受けるためには、総合課税を選択し、確定申告を行う必要があります。これにより、以下のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 税負担が増える可能性: 給与所得など他の所得が多い方が配当所得を合算して総合課税を選択すると、所得税の税率が上がってしまい、配当控除額を差し引いても、申告分離課税や申告不要制度を選択した場合よりも税負担が増えてしまうことがあります。日本の所得税は累進課税制度のため、所得が多くなるほど税率が高くなります。
- 確定申告の手間: 特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合でも、配当控除を受けるためには確定申告の手続きが必要になります。
- 国民健康保険料等への影響: 総合課税を選択して所得が増えることにより、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料などに影響が出る場合があります。また、扶養控除の対象から外れる可能性も考えられます。
これらのメリット・デメリットを理解した上で、ご自身の所得状況や他の金融商品の取引状況(譲渡損益など)を考慮し、総合的に判断することが重要です。
配当控除額の計算方法
配当控除額は、受け取った配当所得の金額に一定の控除率を乗じて計算します。控除率は、所得の種類や、課税される所得金額によって異なります。
一般的な国内上場株式等の配当所得に対する控除率は以下の通りです。
- 所得税の控除率: 10% (課税総所得金額等が1,000万円以下の部分) または 5% (課税総所得金額等が1,000万円を超える部分)
- 住民税の控除率: 2.8% (課税総所得金額等が1,000万円以下の部分) または 1.4% (課税総所得金額等が1,000万円を超える部分)
例えば、課税総所得金額(他の所得と配当所得を合算した後の金額)が1,000万円以下の方が、年間10万円の国内上場株式等の配当金を受け取った場合、配当控除額は以下のようになります。
- 所得税の配当控除額: 10万円 × 10% = 1万円
- 住民税の配当控除額: 10万円 × 2.8% = 2,800円
- 合計の配当控除額: 1万2,800円
この合計1万2,800円が、本来支払うべき所得税と住民税から差し引かれる税額控除となります。
ただし、上記の計算はあくまで一般的な例です。具体的な控除率や計算方法の詳細は、国税庁のウェブサイトなどで最新の情報をご確認ください。
他の申告方法との比較と有利な選択
配当控除を適用するために総合課税を選択すべきか、それとも申告分離課税や申告不要制度を利用すべきかは、個々の所得状況によって異なります。
一般的に、以下のようなケースでは、配当控除を適用するために総合課税を選択するのが有利になる傾向があります。
- 配当所得以外の所得が少なく、課税総所得金額が低い場合: 所得税・住民税の税率が低いため、配当控除による減税効果が大きくなります。所得税・住民税の合計税率(例えば所得税5% + 住民税10% = 15%)が、申告分離課税の税率(20.315%)よりも低くなる場合、総合課税が有利になる可能性が高いです。
- 多額の配当所得がある場合でも、他の所得がそれほど多くない場合: 同上。
- 譲渡損失がない場合: 特定口座(源泉徴収あり)では、同じ口座内の譲渡損と配当所得を自動的に損益通算できますが、総合課税を選択すると損益通算ができなくなります。譲渡損失が出ている場合は、申告分離課税を選択して譲渡損失との損益通算を検討した方が有利になることがあります。
一方、以下のようなケースでは、申告分離課税や申告不要制度を選択する方が有利になる傾向があります。
- 配当所得以外の所得が多く、課税総所得金額が高くなる場合: 総合課税を選択すると所得税率が上昇し、配当控除額を差し引いても税負担が増える可能性があります。
- 多額の譲渡損失があり、配当所得と損益通算したい場合: 申告分離課税を選択すれば、国内上場株式等の譲渡損失と配当所得を損益通算できます。これにより、源泉徴収された税金を取り戻したり、税負担を軽減したりできます。
- 確定申告の手間を省きたい場合: 特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、申告不要制度を選択すれば確定申告は不要です。
ご自身の状況に合わせて、シミュレーションを行うなどして、最も税負担が少なくなる申告方法を選択することが重要です。税務署や税理士に相談することも一つの方法です。
まとめ:配当控除を賢く活用するために
配当控除は、国内上場株式等の配当金にかかる税金を軽減できる魅力的な制度です。しかし、その適用には「総合課税での確定申告」が必須であり、所得状況によってはかえって税負担が増える可能性もあります。
高配当投資を行う上で、配当控除を賢く活用するためには、以下の点を理解しておくことが大切です。
- 配当控除は国内上場株式等の配当金が対象であり、外国株配当などは対象外であること。
- 適用には確定申告で総合課税を選択する必要があること。
- 総合課税が有利になるかどうかは、配当所得以外の所得金額や譲渡損益の有無によって異なること。
ご自身の年間所得や、他の所得、譲渡損益の見込みなどを踏まえ、最も有利な申告方法を検討してください。特定口座(源泉徴収あり)を利用していても、有利になる場合は確定申告をして配当控除の適用を受けることができます。
税金や制度は複雑に感じられるかもしれませんが、一つずつ理解し、ご自身の投資目標達成のために制度を有効活用していきましょう。