高配当投資で特定口座(源泉徴収あり)利用者が知るべき確定申告の要否判断基準
はじめに
高配当投資をされている方の多くは、証券会社で特定口座(源泉徴収あり)を選択されていることと思います。この口座を選んだ場合、配当金や株式の売却益にかかる税金は、証券会社が自動的に計算し、差し引いて(源泉徴収して)納税まで済ませてくれるため、原則として確定申告は不要となり、非常に手軽に取引できるのがメリットです。
しかし、「特定口座(源泉徴収あり)」を選択していても、確定申告をすることで税金を取り戻せるケースや、確定申告が必要になるケースがあることをご存知でしょうか。特に高配当投資を行う上で、この点を理解しておくことは、税金で損をしないために重要です。
この記事では、高配当投資を特定口座(源泉徴収あり)で行っている方が、ご自身の状況で確定申告が必要か不要か、あるいは確定申告をした方が有利になるのかを判断するための基準と、申告を検討する際の注意点について分かりやすく解説します。
特定口座(源泉徴収あり)の基本的な仕組みと税金処理
特定口座(源泉徴収あり)では、国内上場株式等の配当金や売却益に対して、原則として一律20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金が、支払われる際に自動的に差し引かれます。この「源泉徴収」によって納税が完了するため、原則として確定申告は不要となります。
証券会社からは、年間の取引内容と源泉徴収された税額が記載された「特定口座年間取引報告書」が交付されます。確定申告をする場合は、この書類を利用します。
特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告を検討すべきケース
特定口座(源泉徴収あり)では原則確定申告が不要ですが、以下のような場合には、確定申告をすることで税金を取り戻せる、あるいは手続き上確定申告が必要になることがあります。
ケース1:配当控除を適用したい場合
特定の条件を満たす国内上場株式等の配当金については、「配当控除」という税額控除を適用できる場合があります。配当控除は、配当所得を他の所得と合わせて総合課税で申告する際に適用できます。総合課税を選択して配当控除を適用することで、源泉徴収された税金よりも税負担が少なくなり、還付を受けられる可能性があります。
ただし、配当控除を適用するためには、特定口座(源泉徴収あり)で源泉徴収された配当所得について、確定申告で「総合課税」を選択して申告する必要があります。この場合、申告不要制度を選択することはできません。
配当控除の適用は、所得金額によって有利・不利が分かれるため、ご自身の状況でシミュレーションを行うことが重要です。一般的に、所得金額が一定以下の方にとっては有利になる可能性が高いとされています。
ケース2:譲渡損失と損益通算したい場合
特定口座(源泉徴収あり)内で、株式等の売却によって発生した損失(譲渡損失)がある場合、その損失は同じ特定口座内での売却益や配当所得と自動的に損益通算されます。しかし、特定口座や他の口座で発生した譲渡損失を、別の特定口座の配当所得と損益通算したい場合や、損失を翌年以降に繰り越したい(繰越控除)場合は、確定申告が必要になります。
特に、その年に全体の譲渡損失が譲渡所得や配当所得を上回り、引ききれない損失がある場合に、翌年以降の利益と相殺するために繰越控除を利用する際には確定申告が必要です。
ケース3:他の所得や控除と合わせて申告したい場合
高配当投資で得た所得以外にも、副業による所得や不動産所得など他の所得がある場合や、医療費控除、住宅ローン控除などの適用を受けるために確定申告が必要な場合があります。これらの申告と合わせて、特定口座(源泉徴収あり)の所得を申告することも可能です。
確定申告が不要なケースと、必要になることがあるケースの比較
| ケース | 特定口座(源泉徴収あり)の場合の税務処理 | 確定申告の要否判断 | | :----------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 配当金のみ受け取り | 源泉徴収で納税完了(原則)。 | 原則不要。ただし、配当控除の適用を受けるなど、総合課税を選択したい場合は申告が必要。 | | 売却益のみ発生 | 源泉徴収で納税完了(原則)。 | 原則不要。 | | 配当金と売却益両方発生 | 特定口座内で損益通算後、源泉徴収で納税完了(原則)。 | 原則不要。ただし、配当控除の適用、他の口座との損益通算、譲渡損失の繰越控除などを利用する場合は申告が必要。 | | 売却損が発生 | 特定口座内で他の利益(売却益や配当所得)と自動的に損益通算される。損益通算後、まだ損失が残る場合がある。 | 原則不要。ただし、残った譲渡損失を翌年以降に繰り越したい場合は申告が必要。他の口座の利益と損益通算したい場合も申告が必要。 | | 他の所得があり確定申告が必要 | 源泉徴収で納税完了(原則)。 | 他の所得の申告と合わせて、特定口座の所得も合わせて申告することが可能。その方が有利になるか検討が必要。申告しない選択も可能。 |
確定申告のメリット・デメリット
特定口座(源泉徴収あり)で確定申告を検討する際は、以下のメリットとデメリットを比較検討する必要があります。
メリット
- 税金が還付される可能性がある: 特に配当控除を適用することで、源泉徴収された税金の一部または全額が還付される可能性があります。
- 譲渡損失を有効活用できる: 他の口座との損益通算や、翌年以降への損失繰越が可能になります。
デメリット
- 申告の手間がかかる: 確定申告書を作成し、税務署に提出する手続きが必要です。
- 他の税金や保険料に影響する可能性がある: 確定申告をすることで、合計所得金額が増加し、国民健康保険料や介護保険料が増加したり、配偶者控除や扶養控除の適用を受けられなくなる可能性があります。特に配当所得を総合課税で申告した場合に影響が出やすい点に注意が必要です。
ご自身の状況での判断方法
特定口座(源泉徴収あり)を利用していて確定申告をすべきか判断するには、以下のステップで検討を進めることが有効です。
- 「特定口座年間取引報告書」を確認する: 1年間の配当所得や譲渡所得、源泉徴収税額などを把握します。
- ご自身の他の所得状況を確認する: 給与所得、不動産所得など、他の所得があるか確認します。
- 確定申告を検討すべきケースに該当するか確認する: 配当控除の適用が有利か、譲渡損失を有効活用したいか、他の控除と合わせて申告したいかなどを検討します。
- シミュレーションを行う: 確定申告をした場合としない場合で、税金(所得税・住民税)や社会保険料(国民健康保険料、介護保険料など)がどうなるかを具体的に計算してみます。証券会社や税務署のウェブサイトにあるシミュレーションツールを活用するのも良いでしょう。
- 最終的な判断を行う: 税金の還付・軽減メリットと、手続きの手間、他の税金・保険料への影響などを総合的に考慮して、確定申告を行うかどうかの最終的な判断をします。
判断に迷う場合や、計算が複雑な場合は、税務署に相談したり、税理士などの専門家に助言を求めることも検討してください。
まとめ
高配当投資における特定口座(源泉徴収あり)は、税務手続きが手軽になる便利な制度です。しかし、状況によっては確定申告を行うことで税金を取り戻せるケースや、手続き上申告が必要になるケースも存在します。特に配当控除の適用や譲渡損失の損益通算・繰越控除を検討する際は、確定申告が選択肢となります。
ご自身の投資状況や他の所得、控除の状況を確認し、確定申告をした場合のメリットとデメリットを比較検討し、必要に応じてシミュレーションを行うことが、税金で損をしない高配当投資につながります。この記事が、その判断の一助となれば幸いです。